インタビュー詳細

Profile

理事長

渡邉 利章さん(51)

社会福祉法人 大翔会 Greenガーデン南大分

日本の介護の常識を変えるノーリフティングケア

2014年に「社会福祉法人 大翔会」を設立し、2015年に特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、居宅介護支援センターなどが集まった複合施設、「Greenガーデン南大分」を新設しました。

新設するにあたって、知り合いの紹介で宮崎県にある施設を見学させてもらったのですが、そこで出会ったのがノーリフティングケアでした。ノーリフティングケアとは、”人が抱え上げない介護”のことです。もともとは介護者の腰痛など身体的負担を軽減するために生まれた介護方法で、トイレ介助や入浴介助、移乗介助などにおいて、リフトなどさまざまな福祉用具を活用しています。
その施設で、スタッフのみなさんが福祉用具を手足のごとく使っていたのを見たり、実際に自分たちがリフトを体験させてもらったりして、「えー!こんな楽な介護があるのか!」と衝撃を受けたんです。これを知ってしまったら「やるしかない」と思い、施設の立ち上げの時からノーリフティングケアの考え方を取り入れた介護を行っています。
 
オーストラリア、スウェーデン、デンマークなど、福祉先進国では、人が抱え上げる介護はもう古いんです。しかし、日本では人の手で介護することが温かみのある良い介護だと刷り込まれているので、人の手で抱え上げる介護が行われている施設はまだまだ多いようです。しかし、ノーリフティングケアの考え方からすると、抱え上げる介護は、介護する人の重労働によるリスク、そして介護される人の転倒、転落、体の拘縮のリスクが高く、温かいというより、実は危険の多いケアなんです。

利用者さんもスタッフも笑顔になる介護

ノーリフティングケアを導入しているからといって、すべてを福祉用具に頼っているわけではありません。利用者さんには「今からこれをしますから、あちらを向きましょう」などと丁寧に説明して、動ける範囲で動いていただき、ご本人ができない部分をスタッフが補助をするのが基本です。その上で、どうしても抱え上げるしか方法がない場合に、はじめて福祉用具を活用することになります。すると、利用者さんの体の状態が良い方向に向かっていくことが実際、多いです。これも、ノーリフティングケアのメリットと言えます。

人が抱え上げる介護で身体に負担がかかるのはスタッフだけではありません。抱え上げられる利用者さんは、不安や恐怖を感じて自分の身体を守るために思わず力を入れてしまいます。それを続けていると拘縮といって、間接が固まってしまうことがよくあります。我々の施設では、利用者さんと向かい合って声をかけながら福祉用具を使っているので、利用者さんは恐怖を感じることがなく、体に無駄な力が入ることもありません。ですから、拘縮の状態になった利用者さんは、うちには一人もいらっしゃいません。必要に応じて福祉用具を使うことで、スタッフにも精神的、身体的余裕ができて、より細やかなケアを行うことができるようになるわけです。

利用者さんの尊厳や人権を守り、痛い、つらい思いをさせない。そのために、スタッフが精神的、身体的負担を軽減して笑顔で働ける環境を作る。その一つを担うのがノーリフティングケアの取り組みであると、私たちは考えています。

ノーリフティングケアが支える介護の未来

現在、日本の介護施設関係者においては、ノーリフティングケアという言葉はある程度浸透していて、取り入れようとしている施設も増え始めていると思いますが、完全な形で取り入れている施設はまだ少ないと思います。もちろん、これまで一般的に行われてきた、人が抱え上げる介護が間違っているというわけではありません。しかし、抱え上げることによって、スタッフも利用者さんも心身に負担がかかってしまいます。そのため、介護の仕事に3K(キツイ、汚い、危険)のイメージが付いているのが現状です。

2025年には、全国で35万人、大分県内でも1600人から2000人近く介護職の人材が不足すると言われています。今から人材を増やすというのは難しいと思いますが、ノーリフティングケアによって、今までの半分の人数で質の高いケアが実現できたら、人材不足の解消につながると思うんです。そして、スタッフの負担が減って生産性が上がれば、働き方改革にもつながって、3Kと言われる職場を健全な職場に変えることもできるのではないでしょうか。

2018年度よりはじまった大分県のノーリフティングケア普及促進事業において、我々はノーリフトティングケア先進施設として認定を受け、施設の見学を受け入れたり、研修を行ったりしています。
これから介護職をめざす方々に、ノーリフティングケアというものを知ってもらい、介護職がクリエイティブに働ける魅力あふれる仕事だということを知ってもらいたいです。